+木洩日+
良い天気だった。
暑過ぎない気持ちの良い日差し、強すぎない爽やかな風。
「おーし!!」
こういう日は、気合を入れて
―――昼寝をするに限る。
里を更に奥に入って、小川を越えて、
道なき道を少し分け行って進む。
目指すは、でかい古木の麓だ。
鳥の声も耳に心地良くて、何となく楽しい気持ちになってきて、
鼻歌なんかを歌いながらお気に入りの場所に向かってみると。
…でかい犬に占領されていた。
いつもは目付きのすこぶる悪い、でかい黒い犬が、
腕を組んで胡坐をかいて、
俺のお気に入りの大木に寄りかかってがくりと首を落としている。
そのすぐ斜め隣には、真っ白い犬がその黒い犬に肩を貸して、
一心に書物を読み漁っている。
足を止めると、白い犬がちらりと視線を寄越した。
気配を出来る限り殺して近寄ってみる。
白い犬の方はあっさり視線を書物に戻したが、
黒い犬の方は、変わらず深い呼吸を繰り返しているだけだった。
…驚いた。
(…コイツ、熟睡してる―――?)
―――長いことこの里で共に暮らしている仲間だが、
ついぞコイツの熟睡姿なんて拝んだことがない。
コイツはそういう性質なのか、
人がいるときには絶対に熟睡する事が出来ない。
それは、コイツが全面的に信頼を置いている
朱音の傍だとしても同じ事だった。
どんなに疲れていても、どんなに具合が悪くても、
人がいるときには必ず己を保っている。
そういうヤツだったから、俺が顔を覗き込んでも
ぴくりともしないその長い睫が物珍しくて、思わず手を伸ばして。
その手が触れる寸前に、その隣からの視線でそれを止められた。
『…だめだよ』
白い犬は―――もとい、佐久弥は、
書物に向けていた眼差しをこちらへ向けて、
全く音を立てない、滑るような動きで
静かに人差し指を自分の唇に当てる。
『起きちゃうから』
声を出さず、唇だけを動かしてそれを伝える。
俺も、声を出さずにそれに対して苦笑のような笑いを返し、
黒い犬の―――比奈伎の隣に、腰を下ろした。
初めて聴く、比奈伎の深い呼吸が耳に心地良く、
さわさわと音を立てて揺れる木の葉から漏れる光が、
優しくあたりを包み込む。
―――俺も、熟睡出来そうだ。
おわり。
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