+そらいろ・後日談+
「ねぇ、各務」
ふと声をかけられて我は隣を振り返る。
今、我等は千波流も彩登も見つかって全員で戻るところ。
そんな中で一人、我に声をかけたのは佐久弥だった。
「さっきの話って、あの時の話?」
そっと皆に聞こえないようにして囁かれた言葉に我は頷く。
そうだよ。
あの時お前が迎えに来た日の話さ。
……そういえば、小さな小さな比奈伎を我が連れて戻って来たあの時。
出迎えてくれたのはお前とお頭だったね。
「各務ぃー、比奈−っ!」
こちらに駆けてくる存在の声に気づいて、手を引いていた比奈伎が顔を上げる。
我もそちらに顔を向ける。
視線の向こうでは小さな影が懸命に息を切らしてこっちに駆けてくる。
それは、数年経った今でも覚えているまだ幼い佐久弥の姿。
「はぁ…はぁ……良かった、見つかったんだね」
「ついさっきね」
にっこりと微笑んで比奈伎に微笑みかければ、比奈伎は少し俯いた。
そんな我等のやりとりを不思議そうに見ていた佐久弥は、
きょとんと小首を傾げる。
「どーしたの?」
「いいや?」
今思えば、成長する前の面影すら残さない無邪気なままのその姿。
我はそんな佐久弥を見て可笑しそうに笑いを堪えて言う。
相手はやっぱり不思議そうに首を傾げて、
「何々?」と言った目で我を見てくる。
でも我はそんな佐久弥が可愛くて、答えるより先に笑いがこみ上げてきて
声を上げて笑ってしまった。
「むー…」
少しむっとした顔で佐久弥は背後から遅れてやってきた存在に声を掛ける。
「朱音―っ、各務が答えてくれないーっ!」
「えー?」
何のことだよ?と遅れて姿を現した彼女に、
比奈伎が我の手を握り締める手が強くなる。
我はそれに大丈夫だよ、と口だけを動かして相手に微笑みかけた。
そんなやりとりの後。
足音が聞こえてきて二人で其の先を見つめる。
此処からでもよく見える、凛々しい少女の姿が目に入った。
彼女も足を止めて、我の隣にいる小さな存在を見つけて目を見開く。
「!…比奈伎!」
駆け寄ってきたそれに、比奈伎も我の手を離れてその胸の中に飛び込んでいく。
しっかりと抱き合う二人を見て我は安心した様に微笑んだ。
これでやっと一段落だ。
そう思ってふと、下の方で服を強く引っ張る何かに気づく。
「…?」
顔を横に向ければ、そこには白い髪の小さな佐久弥がこっちを見ていた。
じぃーっと見つめる瞳が何かを訴えてる。
「なーに?」
笑って尋ねると、さっき何してたの?と、むーっとした顔で佐久弥が答える。
さっき……。
あぁ!我等二人のやり取りか。
余程気になってるのか、佐久弥の瞳が
教えて教えてといわんばかりに訴えてくる。
「…それは………」
「………そ、それは?」
「…内緒♪」
片目を瞑って笑って言えば、佐久弥は悔しそうに涙目で我を睨んだ。
「各務の意地悪ーッ!!」
それがあまりに可愛い顔だから、可笑しくて。
その場で我はまた声を上げて笑う。
後には不思議そうに首を傾げてこちらを見つめる二人の視線が残った。
そして、場面は再び現代へと戻る。
我は昔の小さな面影を今の佐久弥に重ねて小さく笑った。
「各務は今も意地悪だよね」
「佐久弥は昔よりもいじめ甲斐がなくなったね?」
「………今もやられる程弱くはないよ」
そう言って苦笑する相手に我はくすくすと笑い返す。
あの頃とは確かに変わった者達は…我の予想を遥かに超えて
とても……素敵な一面を持った存在に成長してくれた。
『教えてくれるまでずーっと傍を離れないから!』
『構わないけど……それもいつまでもつかねえ…』
『うっ…』
『佐久弥……各務相手にそれは無謀すぎるよ』
『ふふっ、勝ちが見えてるね、既に』
『うー…!!』
そうして耳に聞こえた昔みたそれを思い出して、我はまた小さく笑う。
本当に……比奈も、佐久弥も……
まだまだこれから先を見るのが楽しみでならないねえ。
「おーい!!里が見えてきたぞー!」
「ホント?よぉーっし、彩登がいっちばん乗りー!!」
「あ、こら走るな彩登ぉぉぉー!!」
駆け出す二つの影に、比奈伎が全く…といわんばかりに盛大に溜息を付いた後。
その後を追って足早に走り出す。
「それでは、我らも行こうか?」
「あ、待って」
我も後に続こうとしてふと、唐突に呼び止められた声に振り返る。
声をかけた人物−佐久弥−は、あの日のように真っ直ぐに我を見て言った。
「ねぇ、あの日。本当は二人で何をしていたの?」
………まだ諦めてなかったのか。
もう何年も経ってるというのに諦めの悪い子だねと思いつつ、我は笑って
すっと、上を指した。
「そら……」
「…?」
「そらいろを見ていた。二人で」
真っ暗な空に転々と輝く、小さな星達を。
我等を見守るようにこちらを見下ろす大きくて温かい存在−月−を。
告げた言葉に佐久弥は少し意外そうな顔を向けて口を開いた。
「それだけ?」
「……それだけだよ?」
穏やかな笑顔で答えると佐久弥は皆の居なくなったその場で盛大に溜息を付く。
「それだけの為に何年も私は……」
「…?」
「あぁ、うん。こっちの話」
「もしかして……ずっと気になってたのかえ?」
クスッと笑って尋ねると相手は少し困った様な顔をして黙り込んでしまった。
そこで気付く。
あぁ、こんな傍にも見落としてた可愛い存在が居たようだと。
「さぁ、もう帰ろう?」
ぽんぽんとその頭を撫でて笑って歩き出す。
それに佐久弥は少しだけ苦笑して先を行く我の後に続いて歩き出した。
何かが変わってしまっても……
誰もが皆持っている。
心の中に幼い頃にあったその頃の自分を。
そうしてふと空を見上げれば……
澄んだ青色が広がる綺麗な綺麗な空が目に映った。
我はそれを見て優しげに微笑んだ。
――あぁ、今日も、空が綺麗だ。
終。
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