+迷い子の後の恐怖。+












比奈伎の迷子事件から一週間後。
どうやら・・・我も人の事を言えた義理ではないらしい。
今回は初めて行く場所だったから、というのもあるのだろうな。



「…まさか我も迷うとは…」



人に言っておきながら自分も迷うとは笑えないな。
そう思いつつ苦笑する。
やれやれ、困ったものだねえ・・・
かといって以前迷った比奈伎に電話するのもどうかと思うしね。



「アレは我を鼻で笑いそうだな・・・」




黙っておくが吉だね。
となると他に連絡して合流するが一番いいか。
しかし・・・
上を見上げれば確かに待ち合わせ場所の目印でもある時計台。



「・・・」



間違ってはいない、はずなんだが。
時計台の下、だった・・・はず。
しかしきょろきょろと辺りを見回すものの、近くに見知った者の姿は見えない。
はて・・・



「・・・うーん」



しかし素直に迷ったというのもどうか。
幸いまだ待ち合わせ時間までには余裕もあるし、
電話でもと鞄から携帯を取り出す。
文明は発達したものだねぇ、便利な世の中になったものだ。
もちろん電話する相手はこんな状況下でも
落ち着いて指示をくれそうな佐久弥だ。



『あ、各務?今何処にいるの?』



それがな。
時計台の前にいるのだよ。
そう我がいうと佐久弥は時計台?と疑問系で返してきた。



『時計台って○○駅の時計台の下?』
「そう」



・・・
暫し妙な間が空く。



『・・・・ごめん各務、ホントに時計台の下?』
「・・・?あぁ」



電話越しに聞こえるのはくすくすと笑う声。
なんだ、我はもしかして間違えたのか?



『誰だ?各務に駅前の時計台の下なんて教えたのは』
『あー、俺俺!』
『あら・・・でも実際、時計台の下であってるじゃないの』
『そーだよなぁ、此処も一応時計台の下だし』
『時計台違いってやつですね、きっと』



・・・聞こえた声に首を傾げる。
もしかして、もしかしなくとも時計台違いだったりするのか?



『あーでもね、今日もまた一人居ないんだ』
「一人?」
『そう、・・・ええと、そっちにね・・・』



もしかしたらお頭が行くかも知れない。
各務と同じ間違いして。
笑ってそういわれた言葉にやはり間違えてるのか!と肩を落とす。



『彩登も彩登も、迎えに行くー!』
『僕も行くー』
『二人が行ったら一緒に迷っちゃうからダーメっ!』
『ええー!!』


呑気だね、皆・・・・。
電話越しに聞こえる声に苦笑する。



「各務」
「・・・で、お頭も此処に来ると?」
「各務っ」
『・・・のはずなんだけど、いやでも・・・』
『・・・何で俺の方を見るんだ?』
『いや、比奈伎の顔が見たくなってね、唐突に』
「各務!!」
「はッ!」



背後で唐突に怒鳴られて、ばっと振り返る。
そこにはきょとんとした顔で我を見つめる噂されてた・・・お頭の姿。



「他の皆はどうした?」



今日の待ち合わせは時計台の下だろう?
言われて思わず苦笑する。
お頭、我等は同じ間違いを犯したようだよ。



『各務?今お頭の声がしたけど見つかったの?』
「今此処にいるよ」
「うん?なんだ?誰かと話してるのか?」



首を傾げるお頭に、少し待っておくれと言って携帯に耳を傾ける。




「所でお前達の言う時計台というのは何処のことだい?」
『うん、今そっちに迎えをやったよ、多分直ぐ来ると思う』




後はその二人に聞いてね?
笑って言われた電話はそこでブチっと切れてしまった。
その二人・・・と言われても何処からくるのか我には分からぬぞ?
携帯を片手に首を傾げていると、お頭がどうした?
と不思議そうな顔をして尋ねてくる。



「いや実は・・・」
「あー!いたいた各務ーっ!朱音様ー!」



聞こえた覚えのある声に振り返る。
あそこに見えるこちらに走ってくる影は、伊織か?
その背後にいるのは・・・・



「伊織じゃないか。待ち合わせ場所を間違えたのか?」
「え?・・・あっはは!やだなぁ、間違えたのは朱音様と各務ですよー?」
「・・・え?」



そうなのか?
ちら、とこちらを見る瞳に我は小さく頷く。
そして我は伊織の背後にいる影に真相を聞こうと声をかける。



「ところで、夜紫乃。皆の言う"時計台違い"というのは一体どういう事だえ?」
「あぁ、うん、実はね・・・それカラオケ店の事なんだよ」
「・・・カラオケ?」
「そう。どうも寿々加がその事をお頭と各務にだけ伝え忘れたみたいで」
「駅にも時計台があるからちゃんと説明してねって
 メールで言ったのに!もぉアイツは!」



後で罰ゲームで何か苦手なの唄わせてやる!
と伊織が呟くのを我とお頭は顔を見合わせてクスッと笑った。
なるほど。
皆の言う『時計台違い』というのはそういう事か。



「皆もうカラオケの方で待ってますよ」
「全員揃ってるのか?」
「揃ってますよ、お二人以外は」



にっこり言われた夜紫乃の言葉に返す言葉もなく苦笑する。
しかし、問題は此処で終わりではない。



「あー、でも・・・さ?」



漸くその『時計台』という名のカラオケに辿り着いた所で伊織が立ち止まる。
なんだか言いづらそうに我の方をちらりと見た後。
お頭と夜紫乃に何やら何かを目で訴えている。



「あぁ!!そっか、そうだった!」
「・・・?何がそうだったなのだ、夜紫乃や?」
「あ、いや・・・ええーと」
「各務、ドリンクでも皆に持っていってやろう」



遅れたお詫びに。
皆喜ぶぞーとお頭が我の肩を押して歩かせる。
我は訳も分からないまま、店の中へとズンズン押し込まれる形で入る。
そそくさと夜紫乃と伊織が奥に居ますからー!と何故か足早に駆けて行く。
・・・?どうしたのだ、あの二人。



「お頭、あの二人」
「さって!どれが良いのか分からないな、各務選んでくれないか?」
「?構わぬが、お頭何かさっきからおかしくないか?」
「うん?そんな事はないぞ、全然っ」









そして彼女達が飲み物選びをしてる頃。
お先に到着したメンバーはというと・・・・・?


「あー・・・そうだったね、
 各務、唄うと人が変わったように暴れるんだったね」



カラオケの一室に集まった五人がひっそりと密談していたのだった。
メンバーは佐久弥、伊織、夜紫乃、寿々加、比奈伎の五名。


「佐久弥!分かってるなら何で誘ったの!」
「・・・・私は誘ってないよ?最初に各務のことを誘ったのは寿々加だろう?」
「すーずーかー!!」


睨む伊織に寿々加が一瞬怯む。
けど怯みながらも、伊織の方を見ておずおずと口を開く。


「だっ、だってよぉ・・・知らなかったし、そんな事」
「確かに。知ってるのは事前に一緒に行った僕と
 伊織と佐久弥と比奈伎だけだものね〜・・・
 けど、今回の件は明らかに寿々加が悪い。
 僕は事前に止めよう?って言ったし。」
「じゃ、今日の罰ゲームは決まりだね♪」
「寿々加、頼むよ?他はもう移動してるし、私達は隣の部屋に移動するから」


穏やかな笑顔で肩をぽんと叩いて言う佐久弥に、
寿々加が一気に泣きそうな顔になる。


「なにぃー!?」
「自業自得だな、しっかりやれよ、寿々加」
「がーん!!比奈伎ぃっ!そんな事言わずにお前も残ってくれよ〜!」
「断る!アレのお陰で・・・俺がどれだけの被害被ったと思ってるんだ!!」



なーんて会話がなされていたりして。
ちなみに前回それの一番被害を被ったのは言わずもがな比奈伎の様である。


「各務には寿々加が一日付き合ってくれるってさって伝えておくから♪」
「夜紫乃!てめ・・・この裏切り者ぉ!!」
「じゃ、がーんばってねー♪佐久弥、比奈伎、夜紫乃、いこv」


静かに扉が閉まる音と共に寿々加の絶叫が木霊する。
ちなみにこの後。
カラオケ内での各務の暴走により、
寿々加の叫びがエンドレスで続いた事は言うまでもない。

















おしまい(笑)





●戻●