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声は聞きたかったけれど姿は見たくなかった。 「ぁ…ッ」 わずかな物音すらも包み込んでしまう漆黒の静寂の中で それを壊さぬように小さく鳴いている虫の声が聞こえた。 最初はただ何となく眠れなくて、ふらりと外へ出ただけで 何か目的があったわけではなかった。 気の向くままに足を動かし、普段の修練上を抜けて山を少し入る。 「ハ…ァ」 初陣の時もこんなには緊張しなかったはずだ。 初めてその音を聞いたとき。 初めてその声を聞いたとき。 自らの心の臓の脈打つ音が、聞こえはしないものかと顔色を失った。 わずかな虫の音に混ざって聞こえてきたものは。 「…ん…ッ」 喉元まで競り上がった何かを堪え、良くぞ気配を消せた。 我ながら感心するほどに、完璧なまでに。 「ぁ、あ…も、う…」 毎日、ではなかった。 少なくて七日に一度、多くて三日に一度。 毎日傍にいて気配を窺っていれば、自然と『いつ』か分かってくる。 何かを感じた日は、気配を殺して闇夜を探る。 彼らが別れて眠りに着くまで、ただじっと、闇夜に溶け込む。 「…ァ、ぁあ…ッ」 静寂の中、わずかに跳ね上がる声音に、共に心の臓がぐっと掴まれる感じがした。 どんな小さな音も聞き逃さないように 全身の注意を払って、ただ、そこに溶け込むだけの時間。 彼らには短いだろうけれど。 とてもとても長い時間―――。 翌朝はまるで何も無いフリをして いつも通りに過ごす二人を窺う。 そ知らぬ顔をしていたけれど、誰が相手か知っていた。 多分、ずっと前から分かっていた。 それでもきっと知らないフリをしていたかった。 夜毎、その『声』に自らの想いを馳せるだけ。 けれど。 声は聞きたかったけれど姿は見たくなかった。 見てしまったら、 相手が自分では無いという現実に それでも手に入れたいと思うこの欲情に 自分が負けてしまいそうだったから。 |
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